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エシカルな旅=思いやりのある旅

更新日:2022年7月7日

GO ETHCAL Special interview

#01 國見祐史さん('Ohana Outfitters代表・エコツアーガイド・Us 4 IRIOMOTE 西表島事務局 エシカルコンシェルジュ)

息を呑むような美しい朝焼け、透き通るサンゴ礁の海を泳ぐウミガメ、マングローブの川に浮かぶ香り高いサガリバナ…西表島で15年に渡ってエコツアーを開催している國見さんは、「今、ここ」でしか出会えない特別な風景を私たちに見せてくれます。


2021年の夏には、世界自然遺産への登録が見込まれている西表島。「東洋のガラパゴス」と呼ばれる希少な自然がコロナ禍においても注目を集める一方で、自然環境や住民生活への影響を配慮して、2019年には約28万人を記録した来島者数に上限を設けるなど、観光客の受け入れ体制に関する規制や条例の検討が続いています。


西表島の豊かな自然と文化を「明日」に継承していくために「私たち」ひとりひとりができることを考え、行動していくプロジェクト『Us 4 IRIOMOTE』を2年前に始めたKEENは、そんな西表島の魅力と楽しみ方、そして島の自然や暮らしに負担をかけない「エシカルな旅」とはどんなものなのか? Us 4 IRIOMOTEの活動を通じて考えています。


今回は、西表島のエコツアーガイドとして、日々たくさんの観光客とふれ合っている國見さんにお話をお聞きしました。


― 國見さんが西表島に来たきっかけを教えてください。

僕が西表島に初めて来たのは2007年、20代後半の頃です。もともとは地元の神奈川でエコツアーやエコツーリズムをやりたくて、その勉強ができる場所として、1996年に日本で最初に「エコツーリズム協会」が立ち上がった西表島を選びました。


― 國見さんが感じている、西表島の自然の魅力は?

西表島というと、今は「亜熱帯のジャングル」という印象が強くなっていますが、僕は、アジア最大級といわれる豊かなマングローブ林こそが西表を象徴する存在だと思っています。眺めて美しいだけの自然ではなくて、台風の時には海からの強風や荒波から船や陸地を守ってくれたり、貝やガザミを穫って食べたり、島の暮らしに欠かせない身近な存在であることも大きな魅力だと思います。



「地域」と「自然」と「遊び」がある、西表島。

― 西表島で暮らすことになったのはなぜですか?

西表の自然の素晴らしさは言うまでもないことなんですが、僕の場合はそれにプラスして、西表で暮らしている人たちとの出会いや、地域の人たちとのふれ合いに大きな魅力を感じて、ここで暮らすことにしました。


現地の会社でツアーガイドとして働くことになってから、割とすぐに地域の青年会に入れてもらうことができたんですけれど、青年会の活動は地域の清掃から祭りの開催、時には遭難者の捜索まで本当にいろいろあって。でもそこで、楽しいことも苦しいことも含めて一緒に取り組める同年代の仲間たちと出会えたことが、ここで暮らすことに決めた最大の理由です。


僕は神奈川県の小田原という町で、それこそ家から歩いて30秒で海に行けるような環境で育ちました。子供のころは当たり前のように自然の中で気軽に遊べて、それを見守ってくれている大人や地域の存在があって。今、そうしたものがどんどん希薄になっていく中で、ある意味で「理想」として思い描いていた暮らし、「地域」と「自然」と「遊び」という僕にとって大切な3つの要素が西表島にはあったんです。


今しか出会えない島の時間を大切に。

― 西表島ではどんなツアーを開催していますか?

2017年に独立して、今は個人事業主としてエコツアーガイドをやっています。西表島には200人を超えるガイドがいますし、僕はツアー業者としては後発ということもあるので、他の皆さんとは少し違うやり方をしたいという思いがありました。それで、その日の天候や風向き、潮の満ち引きといった自然の状態に合わせて、普段だったらあまり人が行かないような場所にカヌーで行ったり、できるだけ近い場所で、その日その時の条件の合う景色やいきものに会いに行くような手作りのツアーをやっています。




― 國見さんの考える「エシカルな旅」ってどんなものですか?

「自分本位にならないように」ということでしょうか。僕がいつも気をつけているのは、「僕がこうしたい」ではなくて、「今、この状況ならばこれがいいんじゃないかな?」と、少し気持ちを自然に寄せていくというか、自然に合わせていこうとする姿勢です。


同じ場所、同じ体験でも、季節や時間帯によってまったく違う景色が見えますから、「ここで、これが見たい」という希望を押し通すよりも、日の出の時間とか、潮の満ち引きとか、今しか出会えない島の時間を大切にして

自然に寄せて行動していくほうが、絶対に素敵な出会いがあると思っています。それは「旅」という限られた時間の中ではいちばん難しいことでもあるんですけれど、ほんの少しだけ西表島の自然に近づく手助けを、僕たちガイドができればと思っています。



ガイド仲間と始めた新しいチャレンジ。

― 具体的に取り組まれていることはありますか?

ピナイサーラの滝はたくさんの方が利用されるので、夏場の繁忙期には滝壺で「おしっこの匂いがする」とか、人間のし尿の影響が深刻化してきました。そこで「西表島カヌー組合」の仲間たちと一緒に有志を募って、2019年から携帯トイレを導入する取り組みを始めました。2020年の冬には駐車場にバイオトイレも設置されることになって、活動するメンバーも増えてきています。



― 最近、気になっていることはありますか?

観光で西表島に来られる方の中で、ほんの一握りなんですけれど、モラルやマナーが低下しているなぁと感じることはあります。当たり前のことですが、西表島にも、観光で訪れる皆さんと同じように生活している人がいます。車の停め方とかゴミの捨て方とか、当たり前のことを配慮してもらえれば何も問題はないんですけれど…。


西表でしかできない体験や出会いを。

それから、せっかく西表島まで来てくださる皆さんには、ぜひ西表でしかできない体験や出会いをしてもらえたらと思います。「滝が観たい」「カヌーに乗りたい」「ジャングルを歩きたい」という体験だけでしたら、他の島でもできますから。これは、僕たちガイドの責任でもあるんですけれど、西表島というフィールドの素晴らしさだけにすがってしまって、この島ならではの体験の提案がまだできていないことを痛感しています。そうすると、つい「人間にとって楽な場所」や「都合のいい場所」でエコツアーをやることになってしまいますから。


苦言を言うだけではなくて、本来の西表島の良さをもっと知っていただけるように、僕たちガイドも頑張っていかなければと思っています。


エシカルな旅=思いやりのある旅。


國見さんには、2018年より撮影を続けている『Us 4 IRIOMOTE』のドキュメンタリー映画の制作で、ロケーションガイドを務めていただきました。「“エシカルな旅”って何だろう?」という問いかけを何度もする中で、「あるお客さんがくれた“思いやり”という言葉が、いちばんストンと腹に落ちました」と、話してくれました。國見さんは、2020年秋からUs4 IRIOMOTEの西表島事務局スタッフとして、そして西表島初のエシカル・コーディネイターとして、「エシカルな旅」を体験するプログラムの開発に携わっています。




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