6月の新月の夜。今日も、西表島から「エシカルな旅」のコラムをお届けします。
(2022年6月29日19:30〜配信スタート)
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#06 自然の音を愛でる
夜に咲き、朝に散る
一夜かぎりの花、サガリバナ。
やわらかな花弁を線香花火のように開くはかなげな花で
奄美や沖縄本島でも見ることはできるけれど、
ポトリと落ちた白やピンクの花が川面を流れていくさまは、
西表島だけで見ることができる特別な光景だ。
この景色に出会うためには、まだ空が暗いうちにカヌーを漕いで、
サガリバナの群落がある川の上流まで、夜明け頃までに到着しなければならない。
…と聞くと、ちょっと大変そうな感じがするけれど、
それだけの価値は十二分にある、五感が目覚めていくような時間が待っている。
朝、まだ暗い川べりでカヌーに乗り込む頃には、
カエルの鳴き声があたりに響いている。
川へ漕ぎ出し、東の空が少し明るくなりはじめた頃、
リュウキュウアカショウビンの鳴き声が聞こえてくる。
すると、それと入れ替わるようにカエルの鳴き声がす〜っと消えていき、
気がつくと、鳥たちの朝のさえずりが賑やかに響き渡っている。
マングローブ越しの空がオレンジからピンクに染まっていくのを眺めながら
奥へと進み、ようやくサガリバナの群落にたどり着く頃、
サンコウチョウの鳴き声が聞こえてくる。
サガリバナの花の下を通ると、甘い香りと共に耳に届くのは虫たちの羽音。
小さなハチから始まって、やがてアブのような大きなハチになり、
続いて蝶々、最後にリュウキュウメジロが花の蜜を吸いに来る頃、
すべての花が川に落ちる。
この、見事な音のサイクル。
最近では、サガリバナの花を目で愛でること以上に、
こうした自然の音の移り変わりを耳で感じることが、初夏の楽しみになっている。
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